寒い冬からようやく暖かい春の気配を感じる日々に移り変わってまいりました。
世の中の厳しい日々も必ず移り行くものです。
今回このような状況での個展になり思いましたことは、皆さまが日々静かな落ち着いた暮らしができるような一助になるようなものを作りたいということです。

私事ではございますが、日の短い冬の季節は毎朝室内の暗闇から坐禅をしながら明るくなってまいります。
外では鳥の声が聴こえ風が動きとても静かな時が流れます。
自分が自然と繋がっていることを感じます。
昨日と今日を比べない、人と自分を比べない、今このひと時を全力で生きることの気持ちよさを楽しめればと思います。

昨年九月は一穂堂ニューヨークで大変な時期に個展を開催して頂きました。
多くの方々に御覧頂くというわけにはいきませんでしたが、とても良い展覧会でした。
こうして開催でき成果があったのは偏に多くの方々とのご縁があり支えて下さる方々がいらっしゃったからに他なりません。感謝申し上げます。

この度もまた大変な状況の中での開催となりますが、多くの方々にご高覧頂ければ幸いです。

 

令和三年 三月吉日  岸野 承 拝

 

 

岸野承の作品に初めて巡り会えたのは、10年前の東北大震災直後、銀座一穂堂近くの地下の狭いギャラリーでした。
階段をトントンと降りると、座禅を組む木彫の僧侶や仏像が10点ばかり展示され、それらは静かに祈っていました。
未曾有の大津波の映像や福島原発事故のニュースで悲しみ怯えていた私の目と心はその慈悲に満ちた優しさに救われた事を思い出します。

岸野承は若き日、ジャコメッテイの表現に響鳴。
存在の部分や輪郭を打ち消し 真髄だけが残る彼の彫刻に影響される一方 禅寺に通い仏教や禅の修行をする中で 今に至る岸野承の造形が生まれて来たようです。

由緒ある寺や神社の古材や流木は岸野承の手によって生命が宿ります。
その彫刻は余計なものを全て排除し光の中のシルエットを描き出しているようで 精神性の高い真髄を浮かびあがらせ 周りの空気を清め 空間を遠くへ広げます。

東北大震災から10年後、新型コロナウイルスで世の中が一変した今、岸野承の作品が再び人々を救い慈しみと安らぎを与えてくれるように思えるのです。

 

青野 惠子