Kohei Nakamura

Overview
陶芸家として生きて来た私の体の中のエネルギーには大きく2種ある。

1つは若き日 ニューヨークで発表した世紀末の毒気を持つ造形と もう1つは日本の古典への回帰 静かな茶碗への憧れ、写しの世界である。

これはそのまま 天下を取るために戦う強い武将に対して、生涯を1つの釜と数個の茶碗しか使わず簡素極めた茶人 丿貫(へちかん)との対比でもある。

 

今回はその丿貫が現代人に向けて物申しているような 地面に杖を突きさす「丿貫の杖」を軸にしてみた。

そして「現代の古典」茶碗を作りつつも、自由な発想の鑑賞を目的とする茶碗を作ろうと思い立った。

鑑賞といえば絵画、日本の絵画といえば琳派、琳派といえば青海波。

自由な発想は順を経て赤楽茶碗にたどり着き、独自技法の開拓を重ね 沢山の失敗茶碗を作リ続けることになる。

 

今回の赤楽茶碗の鮮やかな赤色は 丿貫が北野茶会でデビューした時、秀吉に見染められたあの大きな赤い野点傘、その赤なのかも知れない。

 

中村 康平

 


 

赤の野望

 

中村康平は赤楽を焼いた。

薄暗い茶室で鉄釜から立ち昇る白い湯気を見ながら 茶の湯を愉しむ……そんな赤楽茶碗ではない。

 

彼は1992年、ニューヨーク屈指のギャラリー ガース・クラークで世紀末のような陶のオブジェを発表、その作品は話題になりメトロポリタン美術館に収蔵された。

中村康平の華々しいコンテンポラリーアートのデビューである。

彼はアメリカで騒がれると逃げるように金沢に帰り 次は長次郎や光悦の茶碗の写しを作リ出す。 古美術に執着して様々な茶碗の写しを作った。

また、2012年 金沢21世紀美術館の「工芸未来派」では大きなオブジェを制作、コンテンポラリーアートの才能の健在を 国内外に知らしめた。

2013年 林屋晴三を唸らせた平成井戸は 菊池智美術館の茶碗展で主役の座を奪い取った。

彼は常に話題の中にいる。

 

令和5年、中村康平の次の野望は赤、青海波を纏った赤楽を造っている。

デコラティブで鑑賞する為の茶碗、桃山時代の侍達が喜びそうな見た事もない赤い茶碗。 彼の挑戦と野望はまだまだつづく。

 

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