小野川直樹 -鶴の樹・祈り-

概要

- 折り鶴との歩み -

幼少期の頃に熱中した折り紙。その中でも特に有名な伝承折り紙の一つである「折り鶴」。
共に時間を過ごして行くに連れて「折り鶴」には、彷徨っている気持ちの吐き場所であり、 繰り返される惰性の様な違和感を感じることがあります。そこには自分と折り鶴とを繋ぐも のや、自分の考える折り鶴の「居場所」や「終着点」というものは、ありませんでした。
2011年に東北で震災がありました。翌年の 4月に岩手県陸前高田へと赴き、現地の方の話を 聞き、実際に町を見て回りました。自然の脅威の前では人間は何もできないのだと恐ろしく、また、その中で輝く生命の力強さも受けました。いつの時代も、人種も性別も社会的地位も 関係なく襲ってくる自然の脅威と向き合い、しかし時にあやかり、共存しているのだと改めて感じます。そしてその体験は同時に、いまを生きている、ということをハッキリと意識させられる様です。
その様な中で、津波に流された校舎の瓦礫脇に置かれた千羽鶴を見て、ハッとしました。
それはまるで行き場のない気持ちを折り鶴に託し、この世ではない場所を行き来するようにと祈りを込めた孤独な儀式の様でした。うまく言葉では表現できませんが、今、折り上げている折り鶴はそういった厳かな「祈り」からきているものなのかもしれません。またその様な事柄を作品に落とし込むことで、折り鶴の「居場所」を創り上げています。
改めて見つめ直してみると、折り鶴はどこか尊く、また神秘的な「なにか」がひそんでいる様に感じます。そして、それはまた、私の信じている「美しさ」でありました。
ひとりひとりが自分なりの「折り鶴」との歩みを持っているかと思います。どの様に感じて どの様に思いを重ねるかは人それぞれですが、作品との対話を通し、心を揺さぶる「なにか」 が生まれることを願っています。


小野川 直樹


 

平安時代から始まったと言われている「折り紙」は「Origami」と称され 世界共通用語になっている。
特に折り鶴は縁起の良い鶴を象っているので、病気平癒、願掛け、平和の象徴とされた。
鶴の声は遠くまで届くので 天上界に通じるとも言われている。
小野川直樹は 1辺13ミリの紙を手先だけで、何千何万 何十万羽の鶴を折り続けている。
誰を想い 何を祈るのか?
盆栽のような鶴の樹は 言葉少ない彼の 平和へのメッセージに違いない。

一穂堂 青野 惠子