宮廻正明 -異時同図-

概要

一穂堂という場を得て、この度、久しぶりに個展を開催する運びとなりました。

今回の個展「異時同図」では、次元を跨いだ相対する要素が複雑に絡み合う世界観を表現しました。

江戸時代までは、西洋文化がシルクロードを旅するうちに 中央アジアの文化と混じり合い、その過程で模倣・受容・変容を繰り返していました。ところが江戸時代になると、社会は全体の意志に関わらず鎖国という「ひきこもり」を始めました。その間に、日本という狭い樽の中に詰め込まれた欲求不満がグツグツと発酵し泡が出始め、やがて原型 とは全く異なったものの中に価値を見いだすようになりました。
ジャポニズムと呼ばれる日本文化の台頭です。
その種は日本文化の最盛期と評価される平安時代迄にすでに存在していました。
絵画の中で次元を動かす試みです。
例えば、法隆寺の金堂壁画に描かれている仏画の顔面の表現には、眼や宝冠は正面向きに、鼻や顔の輪郭線は側面寄りにと、ひとつの顔面の中に正面性と側面性が混在して描かれています。
この時点で、二次元の世界に三次元の立体を持ち込んだキュービズムの世界が既に実現されていたのです。
また、信貴山縁起絵巻の中には、米俵が飛んで来る場面や、参詣する場面ではものが移動する時間の経過が描かれています。
異時同図法により、四次元の世界が表現されていたのです。
今回の個展「異時同図」では、“引きこもり”から“解放”へ、「このようにしなければいけない」から「こうしてみたい」という表現の超越を実現しました。加えて、最先端の デジタル技術を使った変幻燈で、枝垂桜の枝がなびいたり、川面に漣を感じていただきます。
次元を跨いだ相対する要素が、ある時には複雑に絡み合い、ある時には自由に時空を飛び越えて、日本画という絵 画の中に次元を移動させるという試みをお楽しみいただければ幸いです。
試みに賛同いただき会場をご提供くださいました一穂堂の青野惠子様を初め、変幻燈製作にあたり NTT様並びに研究員の山内祥太様には、心より感謝申し上げます。

東京藝術大学名誉教授
宮廻 正明

 


 

宮廻正明展に向けて

 

今年3月、木彫・岸野承展に宮廻正明氏が一穂堂に現れた。その明るく楽しいお人柄と行動力に惹かれ その後すぐ 東京藝大の彼の研究室を訪れた。

藝大の一隅の真新しい建物はスーパークローン文化財研究室、最先端科学技術設備や様々な道具 優秀な人材が集まった実験室、そこでは飛鳥時代の法隆寺金堂壁画や釈迦三尊が再現されていた。
日本の文化財だけでなく 世界の文化財もクローン芸術として再現されていて 日本人として誇らしかった。

次に 宮廻正明先生の絵を見せていただいた。静かなその絵は奥深く美しく、身体中の血液がドクドクと流れるように、心に迫って来た。それで 一穂堂での個展をお願いした。

彼の代表作「水花火」は水面に網を投げる一瞬を 見事に繊細に描いている。
又「協奏」や「枝垂れ桜」はデジタル技術を使って川面が揺れて見える。
今回のテーマ「異時同図」、静止画の中に時間を取り込んでいる。

彼の日本画は 平安時代から鎌倉時代の仏画や 江戸時代の伊藤若冲が描いた手法の裏彩色で、仕上がりは表面に薄絹を貼っている。
薄絹は表面の凹凸が陰影になり 色が重なり絵の中に深く深く誘ってくれる。和紙も顔料の鉱物も薄絹も 彼はこだわって集めている。

彼の画集の文章で「夢を主食に生きてきた。夢の中で生きてきた。夢とともに生きてきた」とあった。

その旺盛な情熱と努力が 夢を引き寄せ、美しい絵を生み出しこの世に残してくれる。

その絵の中で、私もまた 夢とともに生きれそうである。 

一穂堂 青野 惠子

展示風景