松原賢「琳派る」

概要

帰国の日、ケネディ空港の出発ロビーで、ボンヤリと濃厚な16日間を思い返していた。
そこに嬉しいメールが飛び込んできた。
「カオス」がミネアポリス美術館への収蔵が決まったと!

人は人との出会いで思いもよらぬ方向へと導かれて行くように、作品も然り。
1983年に制作したこの作品は、私と共に朽ちて行くものと思っていた。
或るコレクターの方の言葉を切掛に、ニューヨーク展に発展し、ミネアポリスのコレクションに。
世界がこのような状況の時に、此の作品の運命を感じざる得ない。

「カオス」制作から39年。
封印した筆を今、私は楽しんでいる。「藤」に続き今度のお題は「松」。

琳派っている。

松原 賢

 


 

 

2022年3月、早春のニューヨーク。

この季節 この街はアジアのアート工芸に染まるAsia Week。

未曽有のコロナショックで誰もが予測の出来ない世界となったこの時期、Ippodo New Yorkでの 松原賢展「カオスから宇宙へ 」は時代が求めるテーマでもあり、魂で描いた絵が大きな話題となった。
ギャラリーに訪れた美術関係者やコレクターは、松原賢の二河白道屏風の前で身動き出来なかったと聞く。

39年前、難しい浄土信仰の仏画「二河白道 」を、師・井上三綱のタッチを残しながら、混沌としたカオスから阿弥陀の白い道へと続くこの絵を 全身全霊で描いたのだった。
その6曲1双の屏風はミネアポリス美術館に収蔵が決まった。

ニューヨークの余韻を持ち帰りながらも、昨年の藤花図に引き続き絵筆で松に挑んでいる。
枕草子に「めでたきもの……花房ながく咲きたる藤の花の松にかかりたる。」という一節があり、松に絡む藤は男性に寄り添う女性のようで、江戸時代には立雛の装束、古歌にも度々出てくる。

あの抽象画カオスを描いた松原賢は 絵筆を松に託し 琳派に挑んでいる。

展示風景