待ちに待った備前展

概要

待ちに待った「備前展」に寄せて


備前焼は無釉の焼締陶として、中世以来、途切れることなく今日まで焼き続けられて来ました。その理由は土にあります。備前の土は、六古窯の中でも最も細かい粒子の粘土で、急激な温度の変化に弱いので、時間を掛けて徐々に焼成温度を上げてゆきます。土は山土と田土に大きく分かれますが、中でも田土はねっとりとした可塑性のある粘土のため、焼き上りの土味は最高と言われています。備前焼の特徴は、他にも牡丹餅、緋襷、胡麻、桟切などが挙げられますが、鎌倉から室町には壺、甕、擂鉢が、桃山から江戸に掛けては茶陶の名品や細工物が盛んに生産されました。現在は、古陶に回帰する人、新しい備前焼を求める人など様々ですが、各人各様の備前焼を表現してゆけば、それでいいと思います。
今展には、一穂堂と付き合いの深い森岡光男・宗彦親子、後関裕士に加えて、備前の若手作家、伊勢崎晃一朗・石田和也・近藤正彦・瀧川卓馬・豊福博・松本優作の6名が参加しました。森岡光男・宗彦親子の作品は日々の暮らしの中から生まれたシンプルな造形美を表現しています。後関裕士は伊勢崎淳に師事。作品からは備前ならではの土の表情を感じます。伊勢崎晃一朗はニューヨークでジェフ・シャピロに師事。土で出来たモノが空間および感情に作用し、土が持ち得る多様な豊かさを実現させることに挑戦しています。石田和也は伊勢崎淳に師事。轆轤技術や土の表情に拘りながら新たな造形を追求しています。近藤正彦は隠崎隆一に師事。その作品からはふっくらとした土の膨らみを感じます。瀧川卓馬は島村光に師事。小さな細工物を細部にまで拘りながら魅力ある作品を制作しています。豊福博は川端文男に師事。自然練込の技法を基本に、面と面の組み合わせに工夫を凝らした作品を創作しています。松本優作は脇本博之に師事。備前焼の美の特徴を活かしてくれる花器の造形に挑んでいます。待ちに待った「備前焼展」をご堪能下さい。

森 孝一(美術評論家・日本陶磁協会常任理事)

展示風景